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水戸地方裁判所日立支部 昭和50年(ワ)34号 判決 1976年11月11日

原告

佐竹菊夫

ほか三名

被告

小野清

ほか一名

主文

一  被告らは各自、

原告佐竹菊夫に対し金七九万六六〇六円、

原告佐竹義一に対し金七八万二〇二三円、

原告大森早苗に対し金一九万七七三七円、

原告伊藤衣子に対し金一九万七七三七円、

および右各金員に対する昭和四八年一一月一九日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は第一項について仮に執行することができる。

事実

(当事者が求めた裁判)

一  原告ら

被告らは各自、原告佐竹菊夫に対し金二一八万六六九円、原告佐竹義一に対し金一五七万七五二七円、原告大森早苗に対し金四五万三七七七円、原告伊藤衣子に対し金四五万三七七七円および右各金員に対する昭和四八年一一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

託訟費用は被告らの負担とする。との判決および仮執行の宣言。

二  被告ら

原告らの請求をいずれも棄却する。託訟費用は原告らの負担とする。

(当事者が主張した事実)

第一請求原因

一  訴外佐竹義子は、昭和四八年一一月一八日午前一一時二〇分頃、北茨城市磯原町豊田四九〇番地先県道において、歩行横断中、被告小野清運転の普通乗用車に衝突され、同日午後七時一〇分に死亡した。

原告菊夫は佐竹義子の配偶者であり、その余の原告らはその子である。

二  被告清は、自動車運転中たえず前方左右を注視して進行すべき注意義務があるのに、これを怠つて義子に衝突させたものであるから、不法行為者として、これにより生じた損害を賠償する義務がある。

被告正一は、本件自動車の所有者であり、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条によつて損害賠償義務がある。

三  亡義子が蒙つた損害(逸失利益) 金一五三万七〇〇〇円

義子は死亡当時六七歳、身体頑健で、雑貨商の手伝および息子である原告義一の製材業を手伝つており、死亡時から五年間は、従前同様に稼働できる状態であつた。

昭和四七年賃金センサスによると六四歳以降の女子の平均月額は金五万八七〇〇円であり、労働可能年数五年のホフマン係数は四・三六四であるから、算式によると逸失利益は金一五三万七〇〇〇円である。

原告らはこの賠償請求権を相続分に従つて相続した。

四  原告義一が蒙つた損害

(一) 葬儀費用 金七七万三七五〇円

義子の葬儀について原告義一は右金員を支出した。

(二) 雑費および休業補償 金三五万円

義子の死亡により、原告義一は経営している製材業を七日間休業することを余儀なくされ、一日金三万円として金二〇万円の損害を蒙り、又、そのほか諸雑費として金一五万円を支出する損害を蒙つた。

五  慰藉料 合計金六〇〇万円

義子の不時の事故による急逝により、原告らは甚大な精神的苦痛を蒙つたものであり、これを慰藉するには、配偶者である原告菊夫について金三〇〇万円、その余の子である原告三名については各金一〇〇万円をもつてするべきである。

六  弁護士費用 金三四万五〇〇〇円

原告らは本件訴訟を原告ら代理人に委任し、原告菊夫において金一一万四九九九円、その余の原告らは各自金七万六六六七円の弁護士費用を負担する損害を蒙つた。

七  原告らは自賠責保険金四三四万円を受領したので、原告らは相続分に従つて、原告菊夫において三分の一の金一四四万六六六五円、その余の原告らは残額の各三分の一である金九六万四四四五円宛、損害填補に充てた。

八  よつて、原告菊夫は第三項の金五一万二三三五円、第五項の金三〇〇万円、第六項の金一一万四九九九円を加算し、これから第七項の金一四四万六六六五円を控除した金二一八万六六九円、原告義一は第三項の金三四万一五五円、第四項の金七七万三七五〇円、金三五万円、第五項の金一〇〇万円、第六項の金七万六六六七円を加算し、これから第七項の金九六万四四四五円を控除した金一五七万七五二七円、原告早苗および原告衣子はそれぞれ、第三項の金三四万一五五五円、第五項の金一〇〇万円、第六項の金七万六六六七円を加算し、これから第七項の金九六万四四四五円を控除した金四五万三七七七円の損害賠償請求権があるので、被告らに対し、右各金員とこれに対する義子の死亡の日の翌日から支払ずみまでの、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二請求原因に対する答弁

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実は認める。

しかし、本件事故発生の一因は義子にもあつたから損害額算定について過失相殺されるべきである。すなわち、被告清は時速三〇キロメートルで進行して来て義子を発見し、クラクシヨンを吹鳴して徐行直進したのに、義子はこれを無視して無理に被告車の直前を横断せんとしたために、本件事故が発生したもので、義子にも過失がある。

三  請求原因第三ないし第六項の事実は不知。

義子は、本件事故当時六九歳の高齢で、心臓疾患により治療中であつた。

被告車が衝突したときの速度は停止寸前であり、衝突と同時に被告車は停止し、義子は接触地点で横倒しになつたものではねとばされておらず、事故後も自力で歩行して、意識もしつかりしていた。

義子の死亡は、同女の心臓疾患という素因が本件事故と競合して招来されたものであり、この心臓疾息の素因が死亡について四ないし五割の比重をもつていた。したがつて、発生した損害から、この素因によつて生じた分はその寄与度に応じて控除さるべく、しからずとしても、治療額、稼働可能年数、慰藉料の点で損害の相当性判断にあたつて、この素因があつたことを斟酌すべきである。

四  原告らは自賠責保険金四三四万一二三〇円の支払を受けている。又、被告らは義子の受傷による治療費金四万七八七〇円を支払つたほか、香典金二万円、見舞金一万円を支払つた。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  請求原因第一項、第二項の事実は当事者間に争いがない。

二  被告らの過失相殺の主張の当否を検討する。

真正な成立に争いない乙第五号の一、三、第九ないし第一二号証および被告清尋問の結果によれば、次の事実が認められる。現場は、幅員五・九メートルのアスフアルト舗装道路、直線であるが、現場から約五〇メートル中妻寄り付近からゆるやかに北方へカーブして見とおしが妨げられる。破線の中央線があるほか交通規制はなく、歩車道の区別はない。

被告清は、中妻方面から磯原方面へ向つて、自車線の中央線寄り部分を、時速約四〇キロメートルで走行して現場にいたり、約二六・六メートル前方に、道路左側から右側へ横断歩行中の義子が道路中央線付近に居るのを認め、義子が横断を継続するものと考えて、義子の後方を通過しようとして、クラクシヨンを吹鳴して、加速した。義子との距離が約一五・五メートルにいたつたところ、義子が道路中央線から約六〇センチメートル右方へ横断して、手にしていたものを投げ(道路右側にある用水堀に、道路左側の自宅から持つて来たみかん皮などを投棄した)たのち、急ぎ足で道路左側へ戻るのを発見し、左方へ転把しながら急制動したがおよばず、義子が道路左端から約一・二メートルの地点まで戻つたとき、被告車右前部を義子に衝突させた。

右事実によつてみると、義子は自宅前道路反対側の用水堀にゴミを投棄するために自宅を出て、道路を横断し、道路中央をややすぎる付近まで歩行した時に、クラクシヨンの吹鳴によつて被告車が進行して来ることに気付き、用水堀へみかん皮などを抛つて、直ちに自宅方向へ戻つているときに被告車に衝戻されたものであつて、義子にも、被告車の進行を知つて急に方向転換して道路左側へ戻ろうとした、自動車運転者の判断を誤らしめる行動があつたのであるから、事故発生について責任があるものとして、損害算定について過失相殺さるべきである。その割合については、義子が六九歳であつたことや、被告清が義子の動静を確めずに加速進行したことをも考慮すると、義子に二割の割合の責任があつたものと考える。

三  次に義子の従前からの疾患と義子の死亡との関係について検討する。

交通事故によつて被害者が死亡したときに、その死亡が被害者自身の持病や疾患の体質的要素によつて左右されている場合には、死亡と事故との間に因果関係があるからといつて、死亡による全損害を事故による損害とすることは、損害の公平な分担の見地からして相当ではなく、事故が死亡に寄与した限度で相当因果関係を認め、その限度において賠償責任を負担させるのが相当である。

証人今野篤教の証言により真正な成立の認められる甲第二号証、成立に争いない甲第九号証、および証人今野篤教の証言によれば次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

義子の直接死因は二次性シヨツク心不全であり、その原因は本件事故による全身打撲、骨盤骨折であつた。義子は、昭和三七年一一月八日、水戸日赤病院において、高血圧症および心房細動による絶対性不整脈の診断を受け、昭和四四年一一月から昭和四八年一〇月まで、昭和四四年中一回、四五年中二回、四六年中一〇回、四七年中九回、四八年中六回、同病院の措置を受けていた。右の病症は、それ自体として死に直接結びつくものではないが、義子は受傷後二時間で血圧が降下し、担当医はその改善に努めたけれども、心臓疾患による血液盾環不全のために血圧上昇が得られず、心不全のために死に至つた。義子のような心臓疾患は、同年齢者のほゞ一〇〇人中五人にみられるもので、この心臓疾患がなければ、担当医の措置は相当の効果が期待されるものであつた。

右事実によれば、義子の心臓疾患が本件事故とあいまつて義子の死に寄与したことは明らかであるが、その寄与度の判定は困難であるところ、証人今野篤教の証言中にみられる、強いて言えば四、五割の寄与、或いは判定者によつては二、三割の寄与というような証言を参酌し、又、この心臓疾患がそれ自体としては死を招来するものではないことを考慮すると、その寄与度は控え目に二割と判断される。したがつて、義子の死亡によつて生じた損害の八割について、被告らに賠償責任を負担させるのが相当である。

してみると、前項の過失相殺および右の死亡に対する事故の寄与度を合せて、被告清は不法行為者として、被告正一は自賠法第三条によつて、義子の死亡によつて生じた損害の六割について賠償義務があることになる。

四  義子の損害(逸失利益)について。

原告らは統計資料に基いて、六四歳以降の女子は平均月額金五万八七〇〇円の収入があるものとしているが、義子の収入に関しては具体的資料があるから、これによつて検討すべきである。

原告義一尋問の結果により真正な成立の認められる甲第五号証、成立に争いない甲第六、七、八号証および乙第九号証、並びに原告義一尋問の結果によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

義子は六九歳で、同年齢の夫原告菊夫と同居し、食料品、雑貨販売店を営み、隣家に義子の子である原告義一の家族の住居があつて、原告義一は同所で製材業を営んでいる。食料雑貨販売店は義子名義で経営し、原告義一の妻および原告菊夫が商品仕入れにあたり、義子は店番に当つていたもので、又、製材所には電話がなく、販売店に設けられていたため、製材所関係の電話番の仕事をも担当していた。販売店での売上高は、昭和四八年一月から一〇月まで月平均金一四万九八七〇円であり、原告義一の製材所による収入は昭和四八年度において金一三九万四三二三円、四九年度において金一七〇万円であつた。

右事実によつて義子の逸失利益を考えると、販売店の純益は、売上高の三割を超えることはないものと推定されるので、一ケ月約金四万五〇〇〇円程度と算定されるところ、この純益は義子のほか、原告菊夫、原告義一の妻の協力によるものであるから、義子による純益部分はその七割である金三万一五〇〇円程度にとゞまるものと考えられる。製材所の手伝については、その収益から推定される事業規模から考えても、その電話の取次程度の仕事は家族の労働として、金銭に見積るには余りに微小である。とすると、義子の月間純益は金三万一五〇〇円であり逸失利益を算定するにはこの純益から生活費を控除しなければならないところ、義子の家族構成を考慮すると三分の一を控除すべきが相当である。すると義子の一ケ月当り逸失利益は金二万円となるところ、家族営業の食料雑貨販売の仕事は、義子の年齢から考えて、あと五年就労可能であるとする原告らの主張は過大でないので、年間逸失利益金二四万円にホフマン係数四・三六四を乗じて中間利息を控除すると、義子の逸失利益金一〇四万七三六〇円が得られる。

そして、前項の過失相殺等によりその六割金六二万八四一六円について被告らに賠償義務があることになる。

五  原告義一の損害

原告義一尋問の結果により真正な成立の認められる甲第三号証によれば、原告義一は母たる義子の死亡による葬儀関係費として金七七万三七五〇円を支出したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

成立に争いない甲第六、七、八号証、原告義一尋問、および原告弁論の趣旨の結果によれば、原告義一は義子の葬儀および服喪のため、その経営する製材業を七日間休業することを余儀なくされたことにより、人件費、諸経費など金二〇万円の損失を蒙つたことが認められる。その他雑費金一五万円の損失については、これを認めるに足る証拠はない。

原告義一が蒙つた損害金合計九七万三七五〇円のうち、前記過失相殺などにより、この六割金五八万四二五〇円について被告らの賠償義務がある。

六  慰藉料

成立に争いない乙第九号証および原告義一尋問の結果によれば義子の不慮の死によつて、配偶者および親子関係にある原告らが深甚な精神的苦痛を受けたことは明らかであるところ、事故の態様における義子の責任や持病である心臓疾患が死に寄与したことなど諸般の事情を斟酌すると、この精神的苦痛を慰藉するには、原告菊夫に対し金二〇〇万円、その余の各原告に対し金一〇〇万円をもつてするのが相当である。

七  弁護士費用

原告らは原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、報酬等弁護士費用を要するものであるところ、本件事故と相当因果関係にあるものは、判決認容額(第四、五、六項の損害から次項の弁済充当額を控除したもの)の約一割の限度にとゞめるべく、しかるときは金一八万円となり、相続分にしたがつて、原告菊夫において三分の一である金六万円、その余の原告らにおいて各金四万円の損害を蒙つたものと認める。

八  損害填補

原告らが自賠責保険から金四三四万一二三〇円の支払を受けたことは、原告らにおいて明らかに争わないから自白したものとみなされる。そのほか、成立に争いない乙第一〇号証によれば被告らは義子の病院費用金四万七三七〇円を支払い、香奠および見舞金三万円を支払つたことが認められる。これら合計金四四一万八六〇〇円は、原告らの相続分に従つて、原告菊夫に対し三分の一の金一四七万二八六六円、その余の各原告に対し残額の三分の一である各金九八万一九一一円宛、損害填補に充てられたものである。

九  しかるときは、原告菊夫については、第四項の逸失利益中の相続分三分の一である金二〇万九四七二円、第六項の金二〇〇万円、第七項の金六万円を合計した金二二六万九四七二円から、第八項の金一四七万二八六六円を控除した金七九万六六〇六円の損害賠償請求権があることになる。

原告義一については、第四項の残額の三分の一金一三万九六四八円、第五項の金五八万四二五〇円、第六項の金一〇〇万円、第七項の金四万円を合計した金一七六万三九三四円から、第八項の金九八万一九一一円を控除した金七八万二〇二三円となる。原告早苗、原告衣子については、それぞれ、第四項の金一三万九六四八円と第六項の金一〇〇万円、第七項の四万円を合計した金一一七万九六四八円から第八項の金九八万一九一一円を控除した金一九万七七三七円となる。

そのほか、被告らは右各金員に対する本件事故の日の翌日である昭和四八年一一月一九日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

以上のとおりであるから、原告らの請求は右の限度において理由があるものとして認容し、その余の請求はいずれも理由がないものとして棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条但書、第九三条第一項本文、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用する。

(裁判官 田中昌弘)

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